ガバナンス体制の変更について

当社は、2025年9月11日開催の定時株主総会において、以下のとおりガバナンス体制の変更を決議いたしました。

  1. 監査等委員会設置会社および会計監査人設置会社の廃止
    監査等委員会設置会社、会計監査人設置会社を廃止し、監査役設置会社へ移行いたします。
  1. 取締役の選任
    以下の取締役、監査役が選任されました。

役職氏名現職常勤/非常勤再任
代表取締役加藤 誠人常勤
取締役米道 律子常勤
取締役(社外)椿 進AAIC Holdings Pte.Ltd.代表パートナー非常勤
取締役(社外)田中 秀哉AAIC Holdings Pte.Ltd.パートナー非常勤
取締役(社外)尊田 京子一般社団法人日本イノベーション融合学会参与非常勤
監査役(社外)中野 由紀子半蔵門法律事務所代表弁護士非常勤

今後も当社は、より一層のガバナンス強化と経営の透明性向上に努めてまいります。

🌾 JICAの支援でウクライナの農業研究・生産を支援:ウクライナからレポート

今回の投稿は、クラウンエイジェンツ・ウクライナ(CAU)からの寄稿です。

ウクライナの農業は、国家経済と食料安全保障を支える基幹産業です。しかし戦争によって、多くの農地が損傷し、農業機械は破壊され、研究機関は必要な設備へのアクセスを失いました。こうした状況の中、農業の再建と科学的基盤の維持は、ウクライナの復興だけでなく、国際的な食料供給の安定にも直結しています。

日本政府は、緊急復旧無償資金協力を通じて農業分野への支援を決定しました。この支援は、独立行政法人 国際協力機構(JICA)が実施主体となり、クラウンエイジェンツ・ジャパン(CAJ)が調達代理として機材や資源を調達・供与する形で行われています。
CAUは現地パートナーとして、農業研究機関や農家との連携を担い、資機材の受け入れ・配備・活用を支えています。

包括的な支援パッケージで研究と生産を後押し

本プログラムでは、ウクライナの主要な農業研究機関に対し、幅広い機材と資源が供与されました。内容は以下の通りです。

  • 農業機械の供与
     損傷した機材を代替し、農作業を継続するために、トラクター、コンバイン、播種機を提供。
  • 発電機の配備
     農場や研究施設の停電時にも作業を継続できるよう、ディーゼル発電機を供与。
  • 先端的なラボ機器
     ガスクロマトグラフ、原子吸光分析装置、ICP-MS、自動土壌サンプラーなど、土壌・種子・作物品質の研究を支える機材を整備。
  • 主要作物の種子供与
     小麦、大麦、ライ麦、菜種など、播種サイクルを再開するための種子を提供。
  • 研究・実験用ツールの充実
     GNSS/RTK受信機、フィールド用タブレット、農業機械の性能評価用動力計システムなど、先端的な研究・実験設備を配備。

短期的な農業活動の再開と、長期的な研究・技術基盤の強化の両面を支える内容です。

主要研究機関への支援

この支援は、ウクライナを代表する4つの主要な研究機関に重点的に配分されました。

  • ウクライナ土壌保護研究所
     高度なラボ機器および土壌分析ツールを受領。
  • 農業機械・技術予測・試験ウクライナ研究所
     機械・発電機・種子を受け取り、実験的な播種を再開。
  • ウクライナ植物品種検査研究所
     新たな作物品種の試験・認証を支えるため、トラクター、播種機、インキュベーター、ラボ機器を供与。
  • V.M. レメスロ・ミロニウカ小麦研究所
     小麦研究を継続するためのトラクター、インキュベーター、播種機を配備。

CAUは各研究機関と緊密に連携し、供与機材が円滑に配備・活用されるよう調整を行いました。これにより、農業研究の継続と生産活動の再開が可能になっています。

現場に広がる効果

供与された機材・資源は、研究機関と農家双方にとって大きな効果をもたらしています。戦時下であっても、播種・収穫・作物検査といった基礎的な農業活動を継続することが可能となり、農業科学の中核も維持されています。
これらの取り組みは、地域経済の安定と、国際的な食料供給ネットワークの維持にも直結しています。

将来への投資

今回の支援は緊急対応にとどまらず、長期的な視点でも重要な意味を持っています。肥沃な土地と高い科学的知見を持つウクライナは、世界の食料安全保障における重要な供給国です。
供与された機材・設備は今後も活用され続け、農業分野の再建と発展の基盤を強化します。

連帯と協働の支援

JICAを通じた日本の支援は、困難な状況にあるウクライナへの強い連帯の表れです。
CAUは、JICAとCAJの取り組みを現場で支えるパートナーとして、研究機関や農家とともに農業の再建に取り組んでいます。

「農業は国の力」——支援が未来

日本政府と日本の人々の支援によって、ウクライナでは農業活動と研究が再び力強く動き始めています。CAUは、現場の最前線からこの重要な取り組みを支え続けます。

ナイジェリア連邦共和国に対する道路整備関連機材プロジェクト

第3回目の今回は、8月に現地で引き渡し式典が無事に実施された「令和2年度無償資金協力経済社会開発計画ナイジェリア連邦共和国に対する道路整備関連機材プロジェクト」についてご報告します。


ナイジェリアはアフリカ最大級の大国ですが、一方で道路事情に課題があり、整備が不十分なことから、安全性、輸送能力面で大きな障害となっていました。日本政府の対ナイジェリア国別開発協力方針では、経済成長のための基幹インフラの整備、経済活動の拠点となる都市インフラの整備を支援する方針が掲げられています。本プロジェクトでは日本で製造された道路整備関連機材をナイジェリアに供与することにより、かの国の道路インフラ環境を改善し、国内の物流を円滑なものにし、交通利便性を向上させるに留まらず、副次効果として周辺国との円滑な連結にも寄与することが期待されました。更には、ナイジェリアに進出を考える日本企業への後押しとしての期待効果も高く、日本とナイジェリアの関係強化につながる有意義な案件としても期待されています。供与額は3億円で、クラウンエイジェンツ・ジャパンは調達代理機関としてナイジェリア側の実施主体である連邦公共事業省、連邦道路維持公団と緊密に連携、調整を進めて来ました。以下は当社が調達して供与した機材のリストです。

No.機材名数量(台)
1乳剤ローリー1
2ロードスタビライザ1
3振動シングルドラムローラ1
4振動タンデムローラ1
5タイヤローラ1
6ハンドガイドローラ24

2025年8月1日、首都アブジャで試運転及び引き渡し式が開催されました。日本側からは鈴木秀雄特命全権大使、ナイジェリア側からはムハンマド公共大臣を初め連邦公共事業省、道路維持公団から主要な幹部が多数参列しました。鈴木大使からは維持管理の重要性と適切な機材の使用への期待が伝えられ、公共大臣からは日本政府への援助に対する感謝とともに、機材を使用管理する道路公団への適切な維持管理の期待が述べられました。https://www.ng.emb-japan.go.jp/itpr_ja/11_000001_00638.html

本プロジェクトではナイジェリア側は連邦道路維持公団のアガバシCEO自らが業務を担当して下さり、そのおかげもあり円滑に推進することが出来ました。当社から担当者が昨年ナイジェリアを訪問した際には、アガバシCEOが過去に訪日した際にメーカーの工場を見学し、そこから道路維持に必要な機材をナイジェリアに導入したいとの思いが高まり、日本政府へ支援をお願いしたとの経緯をお話頂きました。正式に案件として採択され、入札を経て実際に機材が納入するまでは長い道のりでしたが、そのような思い入れをもって希望された機材ですので、きっと大切に使って頂けることと思います。

調達代理機関としてナイジェリアの施主に代わり、国内メーカーの工場検査に立ち会わせて頂く機会もありました。その際、細かいスペアパーツを一つ一つ丁寧に梱包し、現地に着いたときに分かりやすいようにと工夫されている工場の担当者の方の真摯な姿にも強い印象を受けました。こうした現場の多くの方々の目立たない心遣いがあってこそ日本政府の開発援助に魂が込められるものであり、ナイジェリアの方々にも伝わって欲しいとの気持ちをもって丁寧且つスピーディーなコミュニケーションを心がけました。本プロジェクトによりナイジェリアの道路事情が向上し、物流改善を通じた経済発展にも寄与しつつ、多くの日本企業がナイジェリアに進出する決心への後押しとなることが期待されています。ナイジェリアは西アフリカ地域における広域インフラ開発において重要な国ですので、ナイジェリアの成長を梃子に西アフリカ地域全体の経済開発にとっても良い影響がもたらされることを願っております。

引き渡し式でのテープカット

供与機材への試乗の様子

振動シングルドラムローラ

乳剤ローリー

若手社員インタビュー/キャリアとライフイベントを大切にできる環境で

当社のブログ第2回は、若手社員として活躍し、このたび出産というライフイベントを迎える萩原夏子さんにご登場いただきました。 CAJでは、すべての社員が安心してキャリアを築き、人生の変化にも柔軟に対応できる職場づくりを大切にしています。

今回は、萩原さんに入社の経緯や現在の業務、そして仕事と生活のバランスについて伺いました。(広報)

萩原さんがCAJに入社する前にされていたお仕事と、CAJへの転職を決めた理由などを教えてください。

(萩原)

(社内での萩原さん)

前職は、私立の国際教育に力を入れた中高一貫校の英語の教員として働いていました。

元々は、大学卒業後にJICA海外協力隊として、東アフリカのウガンダの村の小学校で教員としてボランティア活動をしていたため、国際協力分野の職種にいつか戻りたいと思っていました。これまでは草の根目線での国際協力を経験していたため、次は国家の事業としての大きな視点での国際協力に携わりたいと思い、CAJへの転職を決めました。

(ウガンダの村の小学校で算数の授業をして、子供たちができた回答を見せに並んでいるスナップ)
(赴任先の小学校とは別に、首都のスラム街で支援活動をはじめ、子供たちに体育の授業をしている萩原さん)

(広報)

現在担当されているプロジェクトや、印象に残っているお仕事について教えてください。

(萩原)

外務省の無償資金協力経済社会開発計画では、インドネシアのX線、ザンビアの獣医学機材と廃棄物収集車、ウズベキスタンの医療コンテナ案など、JICAのウクライナ緊急復旧計画では教育分野とエネルギー分野での案件を担当しています。特に印象に残っている仕事は、ウクライナ案件とウズベキスタン案件です。

(広報)

ではまず、ウクライナ案件について教えて下さい。

(萩原)

ウクライナ案件では、ウクライナへの緊急支援ということもあり、戦場地でのリアルなひっ迫した状況がウクライナ先方政府からの要望に繋がっています。これまでは、ニュースでしか知ることのできなかったウクライナでの厳しい現状を、案件を通じて直面し、私たちの仕事の進捗如何によって、ウクライナの人々がすぐに日本からの支援を受けることができるかどうかが関わっていることや、私たちがいくら頑張って進めても、戦地の状況によっては、各種手続きが遅れたり、連絡が取れなくなってしまったりと、すぐに支援を届けたいのに、できない、というもどかしさや悔しさを感じることがありました。私は実際にウクライナへ出張はしていませんが、同僚が出張をした際に、無事に支援物資が届き、特に教育分野ではウクライナの子どもたちがそれを実際に手に取り、授業をしている姿を見た時には、大きな達成感がありましたし、私たちの仕事への重みも感じました。

(広報)

それではウズベキスタン案件では如何ですか?

(萩原)

ウズベキスタンは私にとって初めて最初から担当させて頂く案件でした。案件開始時にはウズベキスタンへも出張に行き、現地視察や先方政府と話し合いを行いました。初めて自分で先方政府へ直接説明をしたり、要望を聞いたり、実際の現場を見に行ったりすることで、この案件に対する責任もより強く感じました。国同士の事業ではあるのですが、実際にはこうして人対人で様々なことを調整し、一緒に案件を完成させていくのだということや、ウズベキスタン政府とも、チームであることを感じることができました。その後も、たくさんの調整が必要で、中々一筋縄ではいかないことも多いのですが、その国ごとの事情や現状に合わせて、いかに柔軟に調整していくかがカギとなり、その都度解決策を考えていくことにも醍醐味を感じています。

(ウズベキスタン出張の際に、以前別の案件で納品された医療コンテナの利用状況を視察している様子)
(ウズベキスタン政府との政府間協議会で議事録に署名をしている様子)

(広報)

実際に担当してみて、やりがいを感じた瞬間や成長したと感じる出来事はありますか?

(萩原)

実際に調達した資機材支援物資が現地に届いて、現地の人々が喜んでいる姿を見たり、うまくいかない状況に対して考えた解決策がうまく働いたりした時などは、とてもやりがいを感じています。また、この1年で最初はすべてを先輩社員の方々から教えてもらわなければできなかったことが、今では何か起きた際に、まずは自分で考えた解決策を先輩社員の方に提案し、それに賛成していただいた時などは、少しずつ仕事を覚え、経験を踏んだおかげで解決策も少しずつ自分で考えることができるようになっている、という成長を感じます。また、先輩社員からもたくさんの励ましやお褒めの言葉をいただき、より頑張ろうという気持ちに繋がっていてとても感謝しています。

(広報)

それは何よりですね。職場の雰囲気や、チームでのやり取りについてどのように感じていますか?

(萩原)

新入社員として入ったばかりの頃から、どの先輩社員の方も、案件ごと1つ1つ丁寧に1から教えていただき、前職とは全く違う職種であるのに、皆さん温かく受け入れてくださり、本当に働きやすかったです。どの案件も1人で背負っているという気持ちはなく、必ず上司がついてくださり、大きな案件ではチームで対応しているので、困ったときもすぐに相談できる環境だと思います。様々な経験のある先輩社員の方々から色々なお話を聞けることも多くの学びに繋がっています。仕事だけでなく、休憩時間には世間話を交わし、心の余裕もでき、CAJの会社の一員になってきたと感じることはとても嬉しいです。また、ウクライナ案件、ウズベキスタン案件、ガーナ案件では、実施促進を担当する現地や近隣国の海外のエージェントの方とお仕事をしていて、彼ら彼女らからもたくさんのサポートをもらっているため、よりチーム一丸となって働いていることを沢山感じます。

(広報)

萩原さんから見てCAJの働きやすさや、柔軟な働き方について感じていることがあれば教えてください。

(萩原)

特に前職が教員であったこともあり、CAJの働きやすさは、入社した直後から感じています。フレックス制度や在宅勤務制度があることで、東京都外に住んでいても、自由に通勤時間を調整して出勤することができたり、在宅勤務日を調整したりすることできます。業務の内容上、他国と関わって仕事をしているため、急に忙しくなったり、急に少し余裕ができたりすることがあり、状況に応じて有給休暇も事前に柔軟に申請することができたりすることも大変ありがたいことだと思っています。有給休暇も1年目から沢山いただけたことや、状況に応じて長期で休暇をいただけたことも助かりました。また、妊娠が発覚してからは、私の場合は、つわりが重かったため、上長に相談し、在宅勤務日を多くしていただいたことも大変感謝しております。その後の妊婦検診のための傷病休暇も、案件の状況に応じながら、自由に取得させていただくことができたことにも、感謝の気持ちでいっぱいです。

(広報)

会社としてのバックアップも感じることが出来ましたか?

(萩原)

はい。会社全体で、仕事のことよりもいつも私の体のことを第一に気にかけてくださっていたことも多くの場面で感じており、本当に感謝しております。社員が働きやすいように、働き方の改善を都度行ってくださっていることや、社員の成長を促し、モチベーションを上げるためのグレード制度、マンツーマンでの社長や上長との面談の機会等も、それぞれの社員のことを見てくれている、という安心感にも繋がり、より頑張ろうと思えました。

産休に入る時期への相談もすぐに受けてくださり、引継ぎの段取りなども丁寧に指導頂き、本当に助かりました。引き受けてくださる先輩社員の方々には、業務が増えてしまい申し訳ないという気持ちもありますが、皆さん快く引き受けてくださったことには大変感謝しております。

(広報)

大変ありがとうございました。最後に、今後のキャリアについて、復帰後にチャレンジしたいことなどがあれば教えてください。

(萩原)

先輩社員の方々のように、たくさんの案件の経験を積んで、何か問題が起こった時も、たくさんの引き出しから自分で解決策を柔軟に見つけ、これまで以上に先方政府側ともスムーズにコミュニケーションをしていけるようになりたいです。また、CAJはこれまでの仕事内容以外の分野にも拡大していこうとしているので、私もどんな新しい仕事でも、常に挑戦し、学び続けていきたいと思っています。新しいことに挑戦できることが大変楽しみです。

■おわりに:社員一人ひとりの人生に寄り添って

今回のインタビューを通じて、CAJの業務に真摯に取り組む社員のリアルな姿、そして柔軟で温かみのある職場文化の一端を感じていただけたのではないでしょうか。キャリアの継続とライフイベントの両立は、どちらも人生において大切なテーマです。私たちクラウンエイジェンツ・ジャパンは、「えるぼし三つ星」の認定にふさわしい、誰もが安心して働ける環境をこれからも追求してまいります。

モザンビーク共和国に対する海上安全保障能力向上のための支援

こんにちは。クラウンエイジェンツ・ジャパン広報チームです。
このたび当社は、ブログを通じて私たちの業務や取り組みを少しずつご紹介していくために広報チームを立ち上げました。

クラウンエイジェンツ・ジャパンは、株式会社としては日本で唯一、「調達代理業務」を専門とする会社です。
「調達代理」と聞いても、あまり馴染みがないかもしれません。簡単にご説明すると、日本政府が新興国などの政府に対して行う無償資金協力(ODA)で運用されているスキームの一つで、相手国政府に直接現金を送金するのではなく、私たちのような調達代理機関が、供与された資金を用いて機材や設備などの必要物資を購入し、現地へ届ける役割を担っています。
供与資金は日本の国民の皆さまの大切な税金です。その資金が無駄なく、適切に、契約どおりに使われるよ う、調達代理機関は透明性と信頼性を重視して業務を行っています。業務範囲は調達から輸送、納品、さらには技術指導まで多岐にわたります。

このブログでは、そうした「調達代理」の仕事の中身を、できるだけ分かりやすくお届けしていきます。

第1回インタビュー:経験豊富な佐納さんが語る、モザンビークへの巡視艇供与事業
記念すべき第1回は、当社で最も長く勤務し、多くのプロジェクトに携わってきた佐納秀美さんにご登場いただきます。
今回は、佐納さんが担当された「令和3年度 無償資金協力経済社会開発計画モザンビーク共和国に対する海上保安機材整備プロジェクト」について、お話を伺いました。

日本でのトレーニング風景。日の丸が見えます。

(広報)
それでは佐納さん、よろしくお願いします!

(佐納)
はい、よろしくお願いします。

(広報)
まず、モザンビークに巡視艇が供与された背景について教えてください。

(佐納)
近年モザンビークを経由する麻薬取引が増大しており、モザンビークは中東からアフリカ南部、欧州へと続く麻薬ルートの中継地とされています。また、同国沖では規定量を超過する漁獲を行っている違法漁業者が問題になっています。しかし、モザンビークの沿岸警備隊は巡視艇を保有していないため、独自の海上監視ができず、海上監視能力の強化が課題となっていました。
日本政府は、2019年8月に開催した第7回アフリカ開発会議(TICAD7)において、海洋安全保障や持続可能な水産資源利用を含むブルーエコノミーの発展を支援する旨表明しました。本プロジェクトは、同表明を具体化するとともに、モザンビーク政府の海上法執行能力の強化による平和と安定の確保を通じて、自由で開かれたインド太平洋の実現に寄与するものと期待されています。

(広報)
なるほど、非常に興味深いですね。ところで、巡視艇の調達というと少しイメージが湧きにくいのですが、実際にはスムーズに進んだのでしょうか?

(佐納)
巡視艇は既成品ではないので、まずは専門の船舶コンサルタントを雇用して地形や気象、港湾の状況を含めた現地調査を実施して、どのような船舶が現地に必要とされているかを慎重に検討した上で、仕様を作成するところから始めました。海洋警察はこれまで巡視艇についての知識を持ち合わせていなかったため、先方の要望を踏まえつつ、実績のあるコンサルタントと造船所の知見に頼って、綿密に詳細設計を進める部分にはかなり時間をかけました。

(広報)
ありがとうございます。供与された巡視艇は、日本の海上保安庁が使っているものと同じタイプなのですか?

(佐納)
海上保安庁は様々なサイズの巡視艇を保有していますが、装備については本案件の巡視艇とは異なります。モザンビーク向けの巡視艇は、地形や保守管理能力、維持管理コスト等を考慮して、制限条件下で最大限の高速性能と航続距離のバランスを保つ選択肢として、日本で採用されているWJ(ウォータージェット)式ではなく、プロペラ式の推進装置を採用しています。

(広報)
今月11日にモザンビークで引き渡し式が行われたとのことですが、巡視艇は日本から海を渡って届けられたのですか?

(佐納)
20m級の巡視艇は自走ではモザンビークまで航行できませんので、補給備品および装備品等と共に、東京都江東区の造船所から東京湾経由で横浜港から2025年2月19日に貨物船に船積みされました。昨今の経由港の混雑等の影響で時間はかかったものの、4月12日に無事にナカラ港に到着し、4月22日に海洋警察に正式に引き渡しを完了しました。

ナカラ港に到着した巡視艇Quionga。貨物船に「船積み」された意味がよく解ります。

(広報)
現地での反応はいかがでしたか?日本政府からの巡視艇供与について、市民の皆さんから感謝の声は届いていますか?

(佐納)
巡視艇はQUIONGA(キオンガ号)と名付けられ、海洋警察初の巡視艇として注目を浴びています。7月11日にペンバにて開催された引き渡し式典は、濵田駐モザンビーク特命全権大使、州知事、国家警察司令官、州警察司令官、ペンバ入国管理局長、内務省高官、その他治安当局者など、政府関係者の方々にご出席いただき、大変盛況のうちに終了しました。現在のところ、巡視艇の活動範囲は、主に内務省の警備区域となるため、一般市民の方々が巡視艇を目にする機会はもう少し先になるかもしれません。

(広報)
それは素晴らしいですね。とはいえ、ここに至るまでにはご苦労も多かったかと思います。特に大変だった点があれば教えていただけますか?

(佐納)
海洋警察に納入される初めての巡視艇ということで、念入りな事前トレーニングが必要でした。主機関のメーカーによる保守管理のトレーニング、造船所での構造および船舶操舵等のトレーニングのために、モザンビークから沿岸警備隊の乗組員や機関士の方々に日本まで渡航いただく必要があり、招へいの調整に苦労しました。しかしながら、皆さん熱心に取り組んでくださり、特に日本では1月の厳冬期の実習となったにも関わらず、最後までがんばって技能を習得いただけて、感無量です。

ナカラ港で行われた保守管理トレーニングの風景

(広報)
本当に大変なご経験だったのですね。そんな中でも、佐納さんはこの仕事にやりがいを感じていらっしゃるように見えます。調達代理という仕事では完了までに色々と困難に直面することもありそうですね?

(佐納)
調達代理は日本政府と被援助国の間に入って両方の満足度を上げるために、様々な調整を行う裏方仕事です。書類作成が多くを占めるので、光の当たる仕事とは言えませんが、日本政府側の思いや被援助国側の期待を酌みつつも、入札や資金管理を含めた調達手続きに透明性を確保する必要があるため、かなり気を遣う業務でもあります。調整がうまく進まない時には、へこたれそうにもなりますが、無事に引き渡しが完了し、現地の方々の喜びの声や日本政府からの慰労の声を聞くと、苦労のかいがあったと思え、案件途中でくよくよと悩んだ記憶などは全て吹っ飛んでしまいます。全ての調達が終わり、 完了報告書を提出した時にはやり切った満足感でいっぱいになります。

(広報)
とてもよく分かりました。佐納さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。

おわりに
いかがでしたでしょうか?
今回のインタビューを通じて、「調達代理」という仕事の重要性と、その現場で奮闘するスタッフの想いが少しでも伝われば嬉しく思います。

クラウンエイジェンツ・ジャパンでは、今回ご紹介したモザンビークの巡視船のように、多くの国々でODAを支える調達業務を行っています。それぞれのプロジェクトには、苦労や工夫、そして多くの感動があります。今後も、このブログを通じて現場のストーリーをご紹介してまいりますので、ぜひご期待ください。

次回のレポートをお楽しみに!